ワインの選び方には、たくさんの「正解」が転がっています。肉には赤、魚には白。産地で選ぶ。格付けで選ぶ。
でも、正直に言うと、そのどれも本質ではないと思っています。
誰に贈るか、が全て
僕はマーケティングの仕事を長くやってきました。マーケティングの基本は、大勢に向けて話すことではなく、たった一人の具体的な人物像を思い描くことです。ワインも、実はこれと全く同じだと思っています。
「赤ワインが好きな人」に贈るのではなく、目の前のその人が、これまで何を大事にしてきたか。何に感謝を伝えたいか。どんな時間を過ごしてほしいか。そこまで解像度を上げて初めて、選ぶべき一本が見えてきます。
一本のワインが教えてくれたこと
かつての上司に、伝説的な営業成績を残した人がいました。厳しく、プライドが高く、簡単には心を開かない人でした。
その人に、あるワインを一本贈ったことがあります。理由は単純で、感謝を伝えたかったからです。銘柄や格付けで選んだわけではありません。その人がイタリアワインを好んでいたこと、そして、その人が歩んできた道のりに重なる物語を持つ一本だったこと。それだけで選びました。
高価なワインでも、有名なワインでもありませんでした。それでも、驚くほど喜んでもらえました。ワインそのものより、「自分のために選ばれた」という事実が、相手の心を動かしたのだと思います。
セオリーは、補完でしかない
「肉には赤、魚には白」のようなセオリーが無意味だとは思いません。ただ、それは正解を決めるものではなく、外さないための最低限の補完でしかない。
美味しいと思えるワインは、たいてい何と合わせても美味しいものです。それより大事なのは、そのワインが、目の前の相手の物語とどれだけ重なるか。
次にワインを贈る前に
もし今度、誰かにワインを贈る機会があれば、この問いを自分に向けてみてください。
- 銘柄や格付けより先に、相手がこれまで何を大事にしてきたかを思い出せているか
- 「万人受けする一本」ではなく、「この人だけに刺さる一本」を探せているか
- そのワインを通して、相手にどんな時間を届けたいのか、言葉にできているか
ワインは、大勢にではなく、たった一人に向けて選ぶものだと思っています。その一本が、セオリーの外側から相手の心に届く瞬間が、僕は一番好きです。